日本に限ったことではないが、2010年夏の猛烈な暑さ、ゲリラ豪雨、亜熱帯化などの異常気象が生態系や市民生活に与えたマイナスインパクトは小さくない。その原因がCO2を含む温室効果ガスによる地球温暖化と密接な因果関係にある、という科学的立証が完ぺきではないにしても、世の中は概ねその仮説に基づいて動いていることは間違いないし、そう動くのが必然だろう。
世界にはおよそ9億台(日本自動車工業会:2005年度統計)の自動車がひしめいている。CO2排出に関して自動車だけを悪者とする考えはいささか短絡とはいえ、今後の自動車に与えられた使命が小さくないことも否定できない。となると、行き着く先はEVなどエコロジカル・モビリティの普及によって、総台数の中での環境負担抑制車の比率を高めることが自然の流れには違いない。
下の表は富士経済と野村総研の調査によるエコカーの世界市場規模の予測。数字に開きがあるのは、データ集積に基づく基準が異なるためのようだ。共通しているのは、エコロジー・カーの中心をHV、PHV、EVとしていることで、その規模は10年で数倍から18倍になるとしている。つまり、両データはともにエコカーの世界市場は飛躍的に伸びていくものと予測していることだ。
エコカーの世界市場規模予測
? | 2010年見込み | 2015年予測 | 2020年予測 |
富士経済予測HEV PHEV EV トータル |
103万2000台 5000台 7000台 104万4000台 |
451万台 24万台 36万5000台 511万5000台 |
1476万台 215万台 175万台 1896万台 |
野村総研予測HEV PHEV EV トータル |
252万台 4万台 1万台 257万台 |
707万台 50万台 25万台 782万台 |
1099万台 140万台 75万台 1314万台 |
*野村総研予測は日・米・欧・中の4地域
また、経営コンサルティングのA.T.カーニーによると、2007年に80%あったガソリン車の比率が2020年には44%まで下がり、逆にEV、PHV、HV市場は25%に伸びると予測している。さらに日本ではEV開発意欲が高いため、国内での普及速度は早いだろうとも予測している。
では、シンクタンクなどが分析する「EV普及の要点」とはどのようなことなのだろうか、まとめてみた。
- EV普及の条件としては、?電池のコスト ?電池の性能 ?充電インフラの3点
- 将来的にはリチウムイオンバッテリーが増加するが、安全面や価格面をはじめ解決すべき課題が多く、リチウムイオンバッテリーの本格的な採用は2015年、普及期は2020年以降になるだろう。
- リチウムイオンバッテリーの研究開発動向に左右されながら、2021年?2022年にPHEVが、2021年?2025年にはEVが本格的な普及期に入るだろう。
- EVは日本メーカーが先行し、当面は日本がEV市場の牽引役となる見通し。 2015年も日本が3分の1以上を占める最大市場であるとしながらも、特に補助金制度が充実している北米が大幅に伸びる。2020年には充電インフラの積極的な整備を推進する欧州が他の国・地域を大きく引き離し4割を超える最大市場になるだろう。
- 電池性能が一定の進化を果たせない場合、EVのシェアは1%(約100万台)にとどまるだろう。
- 搭載電池の供給事情や販売価格などに大きく左右されるものの、各国政府の支援などがEV普及を牽引するだろう。
- 日本のメーカーには、電池の要素技術、システムとして組み上げていく技術、量産できる技術があるが、市場が成長する中でいかに維持・強化していける仕組みを構築できるかが、優位性を保つための課題だろう。
- EVは当初の規模は小さくても、かなりの確度で長期的には世界がEV化の方向に進むことは間違いないだろう。
- 自動車業界を基幹産業とする日本は、産業全体あるいは産業の枠組みを超えた戦略転換を自動車のEV化により迫られることになるだろう。
果たして、電気の祖にしてヘンリー・フォードの大親友であったトーマス・エジソンなら、このような流れを見て何を語るのだろうか。
「ほら、ぼくの言ったとおりになったでしょ!」・・・・・これはもちろんフィクションである。