ティーウェイヴAR1は東レが取り組む自動車向けのグリーンイノベーション戦略を体現するフラッグシップとして製造されたEVだ。炭素繊維複合材料(CFRP)や繊維、樹脂、フィルムなど同社の持つ様々な材料と設計・加工の技術を適材適所に活用することで、環境負荷低減と安全性と経済性を両立させ、生産性の高さも実現するコンセプトを提案する。(2011年11月1日付けの同社プレスリリースより抜粋)
このティーウェイヴAR1は12月3日から始まる東京モーターショーにも出展されるので大きな話題を呼ぶことになるだろう。CFRPなどの先端素材は最新鋭旅客機のボーイング787でも話題になったこともあり、軽量化、高強度、柔軟な設計と加工が、今後の交通移動体の付加価値としていかに大きなファクターかを知らされる。
先端素材については東レだけでなく、実は帝人にも当てはまる。
帝人は2010年3月30日の同社リリースで新コンセプトカー 『PU_PA EV』を発表している。このコンセプトモデルは「実走行を可能とする剛性を備えつつ、軽量化やハイブリッド化、電気自動車化に向けたさまざまなソリューション技術を融合させたシンボルカーで、同年3月30日より、帝人グループの素材・技術を紹介する総合展示場、テイジン未来スタジオにて展示」としていた。
そしてその1年後の2011年3月9日には、炭素繊維複合材料(CFRP)を1分以内で成形する量産技術を確立したことも発表した。その熱可塑性樹脂を使ったCFRPで車体骨格を作ったEVコンセプトカーの車体骨格重量はなんとわずか47キロという。
自動車の軽量化は、CO2排出量の低減にも寄与するものとしてすべての自動車メーカーが取り組み、軽量部材として特にCFRPが注目されている。
従来の熱硬化性CFRPでは、最短5分程度で成形可能な技術が開発されているが、帝人が開発したこのCFRP成形技術ではこれを1分以内に短縮した。量産車向け材料としての可能性が大きく前進したといわれている。
東レ・ティーウェイヴAR1
東レ単独で約3億円を投じ、イギリスやドイツなどで試作、テストを行った。同社の須賀康雄常任理事は「炭素繊維でどれだけの乗用車を作れるか、極限を試すための実験」と狙いを強調した。炭素繊維は鉄の10倍の強度で、重さは4分の1という先端素材。4人乗りの屋根付きで比べると、車体重量は従来型EVの約3分の2となる。車体の基本構造に使われる部品点数も約20分の1に削減。軽量化で電力消費量が減るため、CO2排出量も約9%削減できる。また、衝突エネルギーの吸収量も約2.5倍となり、高い衝突安全性が発揮できるという。東レは自動車分野を成長事業のひとつと位置付けており、2015年度には自動車分野のグループ売上高を3500億円に拡大する計画を掲げる。(出典:東レ)
帝人『PU_PA EV』
炭素繊維複合材料のコア構造設計によりボディを軽量化。ガラスの2分の1比重の熱線吸収機能を持つポリカーボネート樹脂を窓に使用する。一体成形などの技術を用いて部品のモジュール化。約20点まで部品点数を削減した。定員:2名、車体重量:437kg(一般的な従来型電気自動車の約2分の1)、常用速度:60km/時、1回の充電による走行可能距離100kmという、まさに超小型モビリティスペックである。(出典:帝人)
帝人「1分成型技術・超軽量」EVコンセプトカー
コンセプトカーとして開発したオール熱可塑性CFRP車体骨格の4人乗り電気自動車の車体骨格重量は、従来の約5分の1となる47キロを実現。使用部位のニーズに応じて、①一方向性基材(限定方向に対して高い強度が要求される部位に適した中間材料) ②等方性基材(あらゆる方向に対して強度が等しく、形状自由度と材料設計自由度が高い中間材料) ③LFT(複雑形状部位に対応する射出成形に適した高強度の炭素繊維強化ペレット)の3種類の中間材料を開発した。(出典:帝人)
素材メーカーならばこそのモビリティ・コンセプト
さて「ティーウェイヴAR1」に話しを戻そう。
同社リリースによると、「東レは今回、『素材がかわる。クルマがかわる』をコンセプトに、これからのクルマづくりの可能性を訴求する。2011東京モーターショーではティーウェイヴの実車の他、同車に採用している様々な材料や技術に関する展示と同車の走行シーンを撮影した映像展示もおこない、臨場感ある内容を展開するという。ティーウェイヴは、東レの先端材料・先端技術を駆使し、すべての人に魅力あるコンセプトを提供することを目標に、東レが取り組む自動車用途向けのグリーンイノベーション戦略を体現するフラッグシップとして制作した」としている。
ここで注目したいのは、
- ティーウェイヴAR1のデザインはG・マーレイデザイン(本サイトhttp://evcar.bkweb.jp/archives/4964参照)。
- だが、デザイン以外の技術は自動車メーカーとの共同開発ではなく、3億円程度かけて東レ独自で製作した。
- 車体の基本構造に炭素繊維(カーボンファイバー)を樹脂で固めて成形した複合材料を採用。車体重量は846キログラムと、鋼板主体の従来型のEVに比べて40%以上軽量化し、衝突時の安全性も高めた。
- 写真のとおり試作車は2人乗りで、オープン・スポーツカー。最高時速は147キロという。
CFRPをはじめとする先端素材は、航空機やレーシングカーなどに以前から使われてはいた。その軽さや強度もかねてから実証済みだったのだ。つまり、これからの時代をリードするためのポテンシャル(燃費、電費などの経済性と安全性)をすべて持ち合わせていたことは間違いのない素材だったのだ。
それほどいいものならば、なぜもっと早くに採用しなかったのか? 問題は、課題としてコスト、生産加工技術と時間、絶対需給量バランスではなかったのかと想像する。
しかし東レと帝人という超大手素材メーカーがしのぎを削る積極的な展開や開発の進捗ぶりを見て、「ついにきたな」と容易に想像することができる。そして、次世代自動車の製造・開発には、もはや従来までは黒子的役割に徹してきた素材メーカーも含め、あらゆる業態が主体的に参加できる、一極集中とは違う構造転換の波も同時に押し寄せているのではないか、と思うのである。