「なでしこジャパン」の女子W杯制覇に日本中が沸いた。選手たちの経済的にも恵まれない環境の中で勝ち取った栄冠に、日本のいや世界の誰もが賞賛し歓喜した。何かと暗いこの時期の日本にしてみればまさに「一服の清涼剤」たりえたに違いない。
冒頭から話しの腰を折るようだが、早々なでしこジャパンの快挙のように世の中は回らない。
予算、時間、体制などの諸環境(条件)を整えて、はじめて所期目的は達成されるものだ。通常、ある目標(目的)実現のためには入念に計画を練り、シミュレーションを作成し、試行錯誤と修正を繰り返し、ようやく実行する。が、それでも成功するとは限らない。
で、多くのメディアは「なでしこヒロイン」たちの偉業を「奇跡」と表した。既成の枠組み(仕組み)を超え、実は時代を見据えた「横から目線=監督が選手を理解することから始める」を実践して最大の結果をもたらしたからだ。国民感情からすればそこが一番痛快だったに違いない。
高橋洋一氏
財務省出身の経済学者。プリンストン大学研究員、内閣参事官などを経て小泉政権下の竹中大臣の下で手腕を発揮。現在嘉悦大学教授、政策工房代表取締役会長、金融庁顧問。増税する前にまず政府の無駄な出費を減らすことを主張し、警鐘を鳴らす気鋭の論客。著書「さらば財務省!」(講談社)など多数。TV番組のコメンテーターとしても数多く出演。
岸 博幸氏
経産省出身。エネルギー経済問題の論客。コロンビア大学大学院、資源エネルギー庁官房国際資源課、内閣官房情報通信技術(IT)担当室、経済財政政策担当大臣補佐官などを経て現在慶応義塾大教授。衆議院議員の江田憲司氏や高橋洋一氏らと共に「官僚国家日本を変える元官僚の会」を設立。いわゆる脱藩官僚としてテレビ番組への出演も多数。丁寧で分かりやすい解説には定評がある。著書は「ネット帝国主義と日本の敗北 搾取されるカネと文化」(幻冬社)など。
霞ヶ関=日本の中枢、頭脳・・・・、と言われなくなって久しい。今こそ旧来のプライド、権益、慣例を捨て去り、時代の流れを察知。その上で民意に耳を傾け、新しい仕組みと取り組みを創造する時期を迎えている。写真は中央合同庁舎一号館(出典:国土交通省)
話しは180度変わる。日本の電力供給の仕組みは、電力会社の①地域独占 ②発送電一括までは分かっていたが、加えて③総括原価方式、というものがあることを初めて知った。この仕組みを簡単に説明すると、電力会社の利益とは、
レートベース(固定資産や使用済み燃料まで含む!×3%)+原価(人件費、燃料費、メンテ費用など)=電気料金に反映。という仕組みになっている。
①も②も大いに問題ありだが、③の総括原価方式というのがミソで、簡単に言ってしまえば原発(とは限らないが)などの高額設備に金を掛ければ掛けるほど儲けが増える(レートベースの3%)という(電力会社にしてみれば黄金の)仕組みになっている。
この仕組みのままでは未来永劫に渡り電力料金は上がりこそすれ下がることはない、という通常の民間企業では100%あり得ない競争原理無縁のシステムだ。今の電力会社は表向きは民間企業でありながら、国(政府)や官(経済産業省)などからの庇護のもとで成り立っている構図(仕組み)が見事に描かれている、と言い切れてしまうだろう。
どれほど完全無欠に見える仕組みであっても、このような構図には実は致命的な欠陥があるものだ。それは本来最も注視すべき「国民目線、意思=民意」という視点が欠けている点ではなかろうか。
今回の大震災で、国民のほとんどが無関心だった「電気」というものが、供給量制限(規制)や計画停電などの異常事態を迎えたことから、「発電と送電、配電」が家庭生活や経済活動に多大な影響力を持つことに否が応でも直面してしまったこと。そして、電力はその地域にいる限り事実上買電に選択肢が存在しないこと。原発は怖いが電力の安定供給や地域経済を考えると賛否は複雑で困難こと。など、多くの課題が露呈した格好となった。
時代が求める仕組みは、「民意優先」
この時期、電力に関連する提言や論調は数多くある。その中でも仕組みやあらゆる裏表を熟知しているのはおそらく官僚出身者(それも皮肉だが)からの発信だろう。選挙だけが気になる地盤・看板系政治家よりも、むしろ現場体験に基づいて発する提言は説得力に富み、かつ時期が時期だけに鬼気迫るものすら感じる。
ここではダイヤモンド・オンラインhttp://diamond.jp/に寄稿している旧大蔵省(現財務省)⇒総務大臣補佐官⇒嘉悦大教授の高橋洋一氏と、旧通産省(現経産省)⇒経済財政政策担当大臣補佐官⇒慶應義塾大教授の岸 博幸氏の提言から同サイト上でアンケート調査(ミニ世論調査)を行ったものを、いくつか抜粋させていただき表にした。
いずれの提言も読みやすくきわめて分かりやすいので、ぜひ上記サイトからご覧いただくことをお勧めする。
テーマと支持率(2011年7月20日現在)
執筆者(敬称略) |
設問(青字)とテーマ(●=コラムタイトル、☆=要旨) |
読者支持率 |
高橋洋一 |
余剰電力の全量買取制度に賛成ですか?
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65.7% |
岸 博幸 |
保安院を原子力安全委員会と統合して内閣府の下の独立委員会に改組する案に賛成?
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90.6% |
高橋洋一 |
福島原発の賠償に当たっては東電の株主、債権者も負担を負うべきですか?
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83.1% |
岸 博幸 |
政府が6月14日に閣議決定した「原賠機構法案」の内容に賛成?
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26% |
電力全量買取法案への賛成が3分の2程度なのは、おそらく電力の自由化自体に懐疑的なのではなく、現時点ではその中身が不透明で結果的に電力料金アップに跳ね返ってくる恐れがあるからだと思われる。
関連して東電株主や債権者の負担も見据え、電力料金の引き下げを含む提言に賛成する読者は83%を超える。その中で高橋氏の「東電が解体されるとすると、送電網を売却して賠償金の原資にできる。すると、電力自由化のキモである送電と発電の分離を実務上同時に達成できる」や「スマートグリッドが日本で進まないのは、送電網が開放されていないから」との指摘はきわめて興味深い。そして東電の現体制保護ととられても仕方のない原賠機構法案への反対は73%近い。
元経産省官僚である岸氏が説く「経産省解体」は、経産省内部の実態を熟知しているだけに説得性が高い。民意としては単に霞ヶ関を壊すのではなく、旧態依然とした縦割りや内向き、権益構造に嫌気がさしている、ということで支持は90%を超えている。
忌憚のない国民の意思、民意の大勢はどうやら、
- ★原発依存の賛否は、国民投票が望ましい。
- ★ちゃんとした競争原理が見込めるなら、発送電分離も含めた「電力自由化」が望ましい。
- ★政府は特定電力会社よりも、安定的かつ安心な電力供給にこそ注力すべき。
- ★タテ割り行政の弊害から、これを機にオサラバしたい。
- ★改革とは既得権益との闘いだが、果たして現役官僚にそれ(自浄作用)ができるのか。
- ★省益を死語と位置づけ、真の国益を実践できる政治家しか生き残れないでほしい。
- ★仕組みを変えるには、国民目線を誠実に実践したものだけが評価されるような公務員(の気質)改革を速やかに確立してほしい。*関連して:ダイヤモンド・オンライン特別対談「古賀茂明vs高橋洋一」http://diamond.jp/articles/-/13257 に詳しい。
冒頭のなでしこジャパンの快挙は、常識の枠組み(仕組み)を超えた中で得た最良の結果だ。国民にとって痛快という意味では「(国の)仕組みの転換」も全くいっしょ。旧態依然であれば従来の枠組みを捨て去り、たとえそれが国策であったとしても時代にそぐわなければ国民の意思主体のフェアな仕組みに変えることだ。もっと言おう。現状の仕組みだけを守ろうとすれば、それは国民にとってはこの上なく不快なことになるのである。まさに今、「仕組みの転換」しなくてド~するの?