「知って行動せざるは罪である。生まれてきた使命を果たす」とソフトバンク孫正義社長は語り、東日本大震災で原発が安全ではなかったことを日本国民と世界中の人が知ることになった、と説く。孫氏はポケットマネー10億円で「自然エネルギー財団」を設立し、世界中の科学者との接点を構築。さらに19の自治体と関西広域連合7府県とともに「自然エネルギー協議会」を立ち上げ、メガソーラーなど自然エネルギー普及へと突き進む。追い風要因は多いが、コストや法整備問題など課題も少なくない。
選挙中、「今は国難だ。現場を取材していると、皆さんの一番の不安は電気のことではないか」と繰り返し演説し、だから太陽光発電で電力供給を上げるという政策を訴えてきた。元々医療・介護問題に強いジャーナリストだが、今度の大震災で力点を太陽光発電に向け、結果的に孫社長との接点を確立することになる。今後はジャーナリスト首長と実行力ナンバーワン経営者との掛け合いに注目が集まるだろう。
先の神奈川県知事選で初当選を果たした黒岩祐治氏は、フジテレビのニュースキャスター(報道2001)という経歴の持ち主。日曜朝の政治家相手に歯に衣着せない発言ぶりはまだ記憶に新しいところ。選挙期間中は東日本大震災の影響もあって、県民の選挙自体への関心が薄かったり、松沢前知事の急転回(都知事選への出馬⇒不出馬)などいろいろとゴタゴタはあったものの、結果は172万票を獲得しての圧勝だった。
短い選挙期間中の氏の公約は、専門分野である医療・介護を中心に「900万県民のいのちを守り、神奈川モデルで日本を再生する」(どちらかと言えばごく普通)だった。太陽光発電の普及は政策の一つだったはずなのだが大震災、特に原発の惨状を見て、利用者の負担がないソーラー発電設置の仕組みを県主導で作り、太陽光発電の飛躍的な普及を促す政策をぶち上げたのである。このことはその後大きなオマケがついてくる。
4月17日放送のTV朝日「サンデーフロントライン」のゲストとして新神奈川県知事として出演した黒岩氏は、まだ初登庁前のタイミングだったが、太陽光発電普及について熱く語った。折しも日本は原発問題でナーバスになっていたこともあったが、これが大きな反響を呼んだ。どうやらこの放送をソフトバンクの孫正義社長も視ていたらしく、いたく感銘を受けたらしい。
結果、そのわずか8日後の25日には19の道府県知事(翌日、関西広域連合7府県も合流)と孫氏が「自然エネルギー協議会」を立ち上げ(もちろん黒岩新知事の神奈川県も参加)、明らかに自然エネルギー拡大による「脱原発」の重要性をうたったのである。その場にエネルギー政策を管轄する経済産業省資源エネルギー庁の幹部や、国会議員たちの姿はなかったという(多分呼ばれてもいなかったものと想像する)。
*同協議会設立に賛同している自治体は、北海道、秋田県、埼玉県、神奈川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、岡山県、広島県、香川県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県(25日時点で賛同している19道県)、と関西広域連合の兵庫県、和歌山県、京都府、大阪府、徳島県、滋賀県、鳥取県の7府県。
並行してソフトバンクは休耕田などを活用した大規模な太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画も始める。同社は年間売上高3兆円のうち、数%規模で投資する方針を明らかにしたことはご存じのとおり。詳しくは当サイトの5月25日付のメディアウオッチングを参照されたい。
神奈川県はEV普及の先進自治体
実は神奈川県の松沢成文前知事は熱心なEV普及論者であった。県内でのEV普及に関する施策は数知れずある。新体制となって県政上どうEVや関連インフラと向き合っていくのかは分からないが、少なくても太陽光発電の普及と蓄電を含むEVのシステムは切っても切れない間柄になるはずだから、前述の施策とスピード感をもってドッキングすることを強く望みたい。
さて早々の結論。このようなスピード感で大事に臨むことが、果たして今も昔も政治主導で出来るのだろうか。そこはどうやら一連の震災、原発対応や永田町のゴタゴタ(菅降ろし)ではっきりした。もちろん何から何まで迅速が第一とは言わないが、この時代、少なくとも人の生活に直結する部分で一番望まれていることは「スピード」であることは間違いない。
確かに孫社長は財とアイデアが突出しているし、実行・実現力にも定評がある。が、今回のことで分かったのは、信念を明確にし、曲げずにブレずに突き進むことがいかに重要であるかを知らされたことだ。
本来であれば「国民の生命と財産を守る」のが政治最大の仕事。その中でも水、食、エネルギーが最重要項目で存在するのは自明のこと。もし、民間の孫社長や地方自治体首長を中心に、国策とも言えるような自然エネルギー政策がトントン拍子で進んでいったとしたら、それは国政政治家の存在感すら疑われることになりはしないだろうか。そうなったら、まさにスピード感を軽視したツケである。